A6M3以降の第1風防


 今回は、風防について気が付いた箇所です。零戦の風防は、後期に防弾ガラスが付いた以外に大きな変化がないのですが、今回紹介する箇所は、製造場所の差(三菱製と中島製との差)により発生したと考えている極々些細なところとあまり知られていない細部です。

 

図1

これが、三菱製の32型(A6M3)以降に見られる第一風防です。
風防のフレーム前部の縁は、緩やかな曲線を描いて操縦席側に若干へこんでおり、給油孔とは干渉しません。(その1-M)
この形状は、32型、22型では、ムンダの機体やニュージーランドの機体など、複数が確認できます。52型以降ではスミソニアンの機体、回収時のグアムの機体(現在、浜松43-188)で確認が出来ます。また、別の三菱製52型でも確認がとれています。
次に、風防側面の胴体との接線の部分ですが、前方にやや傾くように斜めに立ちあがります。これによりフレームが太く見えます。(その2-M)
加えて、下端は、斜めに切り落としてあり角をとってあります。(その3-M)

 

図2

 

図3 (防弾ガラス付き)

こちらが、中島製の52型(A6M5)以降に見られる第一風防です。
こちらの場合、フレーム前部は直線で構成されているのに加えて、三菱製の機体に見られるものに比べて若干前側に長いようです。そのため、そのままでは給油孔と干渉してしまうので、切り欠きを設けてそれを避けています。(その1-N)
 POFの機体、ロンドンIWMの機体で確認でき、防弾ガラスが付いた琵琶湖の機体でもこの切り欠きがあります。サンディエゴの機体は、この部分を上から別パネルで塞いであり確認は出来ないのですが、この切り欠きがあるタイプの様です。
 次の風防側面の胴体との接線にあたるフレームですが、こちらのタイプでは垂直に立ちあがります。(その2-N)
下端は、角が残ったままとなっています。(その3-N)
この部分のフレームは、太さが何種類かあるようです。

 

図4

最後は、中島製の最後期の機体に見られるものです。このタイプでは、可動風防と接する部分のフレームが太くなります。(その4‐N)それまでは下部では細く、上部では太くなり可動部側に出っ張っていて、その出っ張り部分が可動部のへこんだ部分とかみ合うという凝ったつくりなのですが、この最後期では、下部の細い部分も太くなり出っ張りがなくなります。一方、可動部にはへこみが残っていて、第一風防内側にも出っ張りがありますから、可動風防が第一風防のフレーム内側に入るように合わさるようです。ところでサンディエゴの機体もこのタイプなのですが、胴体との接線部分のフレームは、琵琶湖の機体より太く、下端の角もとられています。

ここからは蛇足ですが、可動風防の胴体側ガイドレール部分は、胴体の開口部より後では、複雑な断面となっています。これは、胴体と完全に一体になるもので、後で取り付けることは出来ない構造となっています。写真はこのガイドレールの第3風防部分の断面です。上下に胴体の形状に合わせた斜めのフランジが付いたC型チャンネルが一体で引き抜き成形されています。(現在のアルミサッシュと同じです)コックピット開口部分では上側のフランジが削り取られています。また、第3風防の取り付けは上側のフランジに共締めですが、角度が合わないため、ここでも木材が間に挟まれています。(写真の赤枠部分。木材を固定する下からの木ネジ{どうやって締めたのでしょう?}と、風防を固定するスクリューとナットも見えます)

 

写真

また、このガイドレール部分は、第一風防直後から始まるのですが、ここにつながる胴体開口部は可動風防とガイドレール部の厚みを逃げるため、第一風防内で内側に絞られています。絞った部分は胴体と風防枠との間に隙間が出きるので、その部分を充填材で埋める処理をしています。充填材は、少なくとも52型以降は、木材を使用していた様です。
ちなみに零式練習戦闘機では、胴体の絞込みは第一風防の後で始まっています。これは、前部操縦席に可動風防がつかないことと、操縦席自体が前に移動した事と関係があるのだと思います。このため、第一風防のフレームと胴体にギャップは出来ません。

 

さて、今回は、写真がある程度残っている三菱製32型以降と中島製52型以降に限定しましたが、その2、その3の特徴は、三菱製21型と中島製21型でもあてはまるようです。
これで三菱製と中島製が区別できるようになるはずなのですが、残念なことにこの部分がはっきりわかる戦時中の写真というのは非常に少なく、なかなか上手くいきません。

*:この件に対するあなたのご意見、ご感想をぜひ「零戦談話室」までお寄せください。

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主用参考書籍:
デルタ出版 ミリタリーエアクラフト No. 035
文林堂 世界の傑作機 No.5, 9, 55, 56
光人社 図解軍用機シリーズ 5 零戦
光人社 写真集 零戦
文林堂 KOKU-FAN ILLUSTRATED No.53 零式艦上戦闘機
文林堂 KOKU-FAN ILLUSTRATED No.84 日本の空を飛んだ[零戦]
モデルアート No. 518 零式艦上戦闘機モデリングガイド
AJ-PRESS MODELMANIA6 Mitsubishi A6M Zero


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