主脚・主車輪収容部のバリエーション Part 1

 6回目は零戦の主脚・主車輪収容部のバリエーションです。ここでは、脚柱が収まる部分を「主脚収容部」、主車輪が納まる部分を「主車輪収容部」と区別して呼ばせてもらいます。

 最初にお断りしなければならないのですが、今までの出版物の写真で分る範囲でまとめてきたパート1から5とは違い、今回は、出版物に発表されていない資料、写真からのアイテムが含まれています。当初の主旨は、より多くの人が参考にしやすい公表済みの資料で可能な限りの考察を行おうというものだったので、誠に心苦しい限りですが、ご勘弁願います。

(本文中の「図」をクリックすると拡大図が表示されます)

52型

主脚・主車輪収容部は、52型のものが写真も多く発表されていて良く知られています。今回、実機で観察できたものも52型以降のものでしたので、Part1は52型に限定しています。三菱機での参考は、52型(無印)、52型甲、中島機での参考は、52型(無印)、52型丙、62型となりますので厳密には52型だけではありませんがA6M5以降として捕らえていただければと思います。

図1 三菱タイプ右翼側全体図
図2 三菱タイプ左翼側全体図
図3 中島タイプ右翼側全体図
図4 中島タイプ左翼側全体図

図1、2(以後Mタイプ)は、三菱製の機体で見られたもので、図3、4(以後Nタイプ)が中島製の機体で見られたものです。必ずしも三菱製が、Mタイプ、中島製がNタイプと確定できたわけではありません。しかし、メーカーによる違いの可能性は、大きいのではないかと思っています。

(1)配管、配線、配索の概要

 では、後の文章を分かりやすくするため、全体の配管、配線、索(ワイヤー)の大まかな説明です。

1) 初めに主車輪収容部です。(図5)後ろ寄りの斜面に設置されている、配線が胴体側に2本、翼端側に1本出ている箱は、分電箱(a)で「脚標示灯装置」(脚の出し入れを操縦席内のライトで確認するもの)用のものです。構成としては、胴体内から配線が一本この「分電箱」までおりてきて、ここで2分配されます。一方は、付け根の脚引込装置についているについている「押ボタン式スイッチ」へ行き、他方は「車輪懸吊止鈎」(b)(脚を引き上げた時の脚を止めるフック)の「押ボタン式スイッチ」に行きます。

 次に索と管が前後に並んで出ていますが、索が「回転軸爪外シ索」で管がブレーキ用の油管となります。( c )

右側だけのものとしては、ブレーキ用送油管の後側から「脚切換把柄地上安全装置用」のボーデン線がでて翼端側に伸びていく(d)のに加えて、「脚標示灯装置」用の配線の近くから索が一本出て前方に伸びています。この前方に伸びる索は、位置から考えると油冷却機の開閉シャッターを操作するアーレン索ではないかと思います。( e )

 左側だけのものとして胴体側付け根の部分に、一本の太い管が短く露出し、細い管が上面から下りてきています。( f )これは、太い管が燃料系、細い管がブレーキ油の排出用かとも考えましたが確認は取れていません。(図6)

図5 主脚収容部
図6

2) 続いて主脚収容部では、車輪収容部から延びた「回転軸爪外シ索」は、主脚収容部へと斜めに下りていき、主翼下面近くから主翼内に入ります。( 図7 (g) )

 左側は、車輪収容部からのブレーキパイプに加えてピトー管用2本、ピトー管ヒーター用(未確認)1本が後ろ側上部の軽め穴から出てきて加わり、合計4本となり(図7)、右側では、ブレーキパイプ1本と「脚切換把柄地上安全装置用」のボーデン線1本が露出しています。(図8)

図7 左側主脚収容部
図8 右側主脚収容部

これで、主車輪、主脚収容部に配置されている管、線、索の全てとなります。説明に使用した用語は、読んでいただいた方が検討しやすいように「零戦秘録」から引用してあります。

(2)MタイプとNタイプの違い

その1)

MタイプとNタイプでの最も大きな違いは、配線、配管の取りまわしです。

主脚の付け根の脚引込装置についている「押ボタン式スイッチ」に行く配線は、Mタイプの場合は、主車輪収容部で主桁前方部の内側に入ります。これに対してNタイプの場合は、主脚収容部内側にそのまま這わされ4番リブを貫通したところで軽め穴を通って内部に姿を消します。(図9)

図9

その2)

「車輪懸吊止鈎」の「押ボタン式スイッチ」への配線は、Mタイプのものは、一旦主車輪収容部の天井から防火壁直後の胴体に入り、胴体内部からスイッチにつながります。これは、複数の三菱機で確認が取れました。

これに対し、Nタイプのものは、主車輪収容部からそのまま、スイッチにつながります。(図10)

図10 押ボタン式スイッチの配線 左:三菱、右:中島

 この配線の取りまわしの違いにより、電線がつながる部分のスイッチ防護カバーの形状も違ったものとなっています。これも複数の中島機で確認が取れました。(写真1)


写真1 押ボタン式スイッチ 左:中島、右:三菱


写真2 三菱機 主車輪収容部上面 スイッチが上に出ているのが分かる。


写真3 三菱機 左主車輪収容部 配線が入っているのが押しボタン式スイッチ用の穴。


写真4 中島196号の左車輪収容部

その3)

主脚・主車輪収容部の塗装は、確認できた範囲では、三菱製(52型無印)が下面色(グレー)、中島製(21型、52型無印)が青竹色でした。確認できたのは、片手に足りない数ですので全てそうだったということは出来ませんが、当時の実機の写真からも三菱は下面色、中島は青竹色という傾向が一時期あったのではないかと考えています。ただし、三菱機で青竹色、中島機で下面色のものが存在した可能性は十分あると考えています。(写真3、4)

その4)

次は、極めて些細なことですが主車輪収容部につく補強リブが、Nタイプのものは、Mタイプのものより若干短く、さらに1本多くあります。(写真4及び図11)この部分ですが、補強リブの間を前後に通るパネルラインは、胴体の絞りに合せて前方に絞り込む曲線になっています。また、Mタイプはリペットが二列、Nタイプは一列に打たれているという違いもあります。

図11 補強リブ

 

 

(3)M/N 共通の特徴

ここからは、今まで触れられていないと思われるMタイプ、Nタイプに共通する特徴です。

その5)

今まで気にされていませんが、主車輪収容部は左右でレイアウトがほんのわずかですが、違いがあります。「回転軸爪外シ索」とブレーキパイプの引きこみ部で左右に違いがでます。これは、三菱機、中島機でも同じでした。(図12)

図12 左:右翼 右:左翼

 また、右側の車輪押し金具取り付け基部には、左側にないパネルがあります。補強リブをまたいでおり、リブを分割し、パネルと一緒に取り外しできるようになっています。(図5 (h) )

その6)

主車輪収容部にあるパネルですが、この形状はバリエーションがあるようです。このパネルは、防火壁直前、発動機架の下側付根の下にあり、開ければ下から発動機架が見ることが出来ます。しかし、このパネルが何のために使われたのかは不明です。(図13)

図13

その7)

こちらは、初公開だと思います。主車輪収容部に、注意書きがあります。「赤色索ニ手ヲ觸ルル可ラズ」と入ったアルミプレートが、リペット止めされ、まわりを赤く刷毛塗りで囲んで目立つように工夫されています。

ここでいう赤色索とは、主車輪収容部に露出したままの、「回転軸固定爪外し索」のことではないかと思います。また、この注意書きから、この索が赤色であったことも分ります。模型で再現すると、なかなか目立つと思います。(写真3、写真4)

三菱製の機体では、スミソニアンの機体にも中島機と位置が違うものの、このためのリペットが残っているようですし、他の三菱製の機体では、スミソニアンのリペット位置に銘板らしいものがあったことが分かっています。この種類の銘板は、メーカーに関係なく付いていた様ですから、赤い四角も含めて、三菱製の機体にも同様にあったのだと考えています。


写真5 銘板「赤色索ニ手ヲ觸ルル可ラズ」


写真6 中島196号 ケーブル出口の金具にもよく見ると赤色塗料が着いている

主車輪収容部胴体側

これは、Mタイプ、Nタイプとは関係がないのですが、主車輪収容部の一番胴体側にあたる部分のバリエーションです。上の図6が52型甲までに見られる、溝が2本のもので、溝の部分は別に整形されたものがリベット止めされています。

下の図14が、52型丙以降に見られる、溝が4本のものです。溝の部分は、知覧にある機体や琵琶湖の機体をみるとプレスによる一体整形のようです。

今の所、二機ですが52型丙以降の機体で、2本溝のものも見つかっています。そのうちの一機である、琵琶湖の機体は、右が4本、左が2本と左右で違うものとなっています。

図14

軽め穴の蓋

これは、まだ、暫定的な情報しかなく確定できていないのですが、主脚収容部に見られる軽め穴は、布で蓋がされていた可能性があります。ある中島製21型と三菱製52型の軽め穴の部分になにか貼ってあった痕跡があるのです。21型では前側の軽め穴に痕跡がありました。ほこりの進入や塩害を防ぐためと考えれば、蓋がされていても全くおかしくはないと思いますが、残念ながら、今のところ塞がれた状態でのものは確認できていません。(図15)

 

図15 前部縁側詳細 

 

以上、いかがでしたでしょうか。今回は、思っていたより内容が膨らんでしまったため当初21型もふくめた構成を考えていましたが、2部に分けました。Part2は、21型となる予定です。


主用参考書籍:
文林堂 世界の傑作機 No.5, 9, 55, 56
光人社 図解軍用機シリーズ 5 零戦
光人社 写真集 零戦
文林堂 KOKU-FAN ILLUSTRATED No.53 零式艦上戦闘機
文林堂 KOKU-FAN ILLUSTRATED No.84 日本の空を飛んだ[零戦]
AJ-PRESS MODELMANIA6 Mitsubishi A6M Zero

零戦秘録

 

協力:
TK氏
Mr. Ryan Toews
中村 泰三氏

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